ワクワク・ライフ・バランス

誰を向いて仕事をするのか?

【退職エントリ】岡安、アイデムやめるってよ

アイデムを退職する事となりました。

 9月末を以て、2006年4月からお世話になった株式会社アイデムを退職する事となりました。入社した当初には全く想像もつきませんでしたが、結果約10年という月日となりました。在職中にお世話になった方は数知れず、多大なご厚情を賜り誠にありがとうございました。反面、面と向かって退職のご報告ができた方は少なく、退職のご連絡がメールや電話になってしまった事、とても心苦しく思っております。この場を借りて、お詫び申し上げます。

と言うわけで10年分の思いの丈を。

 28歳社会人経験なし。日本での在籍先なし。つまりはニートの私が「タウンワーク(本当はジョブアイデム)を見てお電話しました」とたどたどしく電話応募し、DTPなんて商用環境でやった事ないのに「QuarkXPressPhotoshopIllustrator完璧です」と見得を切り、「なんでこの会社選んだの?」という質問に、「家から自転車で通える距離だったので!」と言う志望動機で入社できたあの日。「漢字テストあるよ。“あいさつ”って漢字で書ける?」と言われ(漢字が全く書けません)、入社への道のりで一番漢字テストを恐れていました(結局、何故かテストは無かった)。

 詳細は長文になるので割愛しますが、

入社→リーマンショック→部署縮小→異動(勤務地変更)→異動(勤務地変更)→異動(職種変更)→新規事業企画→異動→媒体企画→プロモーション(広告・宣伝・Web・PR)兼務→事業企画・開発兼務→新規部署立ち上げ(職種変更)→異動(管理職)→基本全部兼務→今に至る。

 という濃密な10年でした。多分全体の従業員数から考えればあり得ない位のジョブローテーションの機会に恵まれたなと思います。ありがとうございます。

アイデムという会社について。

 アイデムには、

企業は人なり。企業は常に未完成でなければならない。企業は動的でなければならない。

 という経営理念があります。これは毎週月曜日に「唱和」という形で、社員全員で起立し発声しているわけですが、その光景を目の当たりにした初日は吐き気を催した事を記憶しております。その内容にではなく、「ああこれこそ忌み嫌っていた『ようこそビジネス社会へ』という儀式だ」と。ただ仕事をしていく中で、その内容を自分なりに深く考える様になりました。
 「つまり認識論だ」と、捉え直したのは3ヶ月が経とうとする頃だったかと思います。アイデムは株式上場をしていないオーナー企業です。少なからず、その経営方針を揶揄する言葉が社内でも聞かれます。「会社が変わらない」「会社が決めた」「そんな会社だよね」という言葉を聞く度に、いやいやそう規定しているのは“自分自身だよね”と、改めて企業理念を振り返る様になりました。
 私は天の邪鬼なので、企業理念を逆手に取りました。それはつまり“オーナーが決める事が会社(の方針)、ではなく、人=自分が決める事が会社(の方針)であり、かつそれは転がり続けるものでなければならない”と認識する様になりました。そこからは業務領域を大きく跨いだ企画・提案の連続です。当時の上司からすれば面倒くさい人間であった事は確かですが、それでも結局認めてくれていつでも背中を押してくれました。
 結果、媒体の規格を変え、何年も止まっていたマスプロモーションを再開し、新たな事業や企画を展開しながら、アイデムでは苦手とされていたWebプロモーションへの投資を実施する事が可能になりました。今では仮面ライダーゴーストで御成役を演じる柳くんを起用した新卒サイトJOBRASSのCMを作ったり、ACC(日本CM放送連盟)で入賞したイーアイデムのCMバイト戦士など、オンライン施策だけでは体験できない“撮影現場”を体感させてもらいました。何より今では毎年継続されているアイデムカップの立ち上げは今となっては良い思い出です。
www.a-stadium.com

アイデム演劇プロジェクトとして、動画マーケティングを継続しています。
アイデム演劇プロジェクト シャーロックンロール・ホームズ | 地元を再発見するならイーアイデム

何をミッションとしていたのか。

 「岡安さんは、何を担当している方ですか?」と、名刺交換をする度に聞かれます。最終役職は“株式会社アイデム 東日本事業本部マネージャー”ですが、担当職種は記載されていません。言ってしまえば企業運営における、人事・労務・採用関連に関する業務以外全てが業務領域となります。プロモーション領域においては、オンライン・オフライン関わらず(兼務ではありましたが)全てを統括することとなりました。もちろん営業本部としての役割を担っていたので、日々の営業進捗などを見つつ、という感じです。会社全体の売上を拡大し、利益を上げること。そのために営業推進策を検討・実施し、媒体への集客を強めること。それらがミッションとなっていました。※結局引き継ぎの段階になって、色々な人に仕事を振り分ける(投げつける?)事になったわけですが…。

個人的に目指していたこと。

 私はアイデムに入社するまで考古学という分野にいました。学問分野においても社会科学なのか自然科学なのか、とてもイメージがし難い分野ですが、いずれにしても“人”を捉え考えることは今の仕事に共通していました。特に“労働”という概念については、どの時代を通しても“人”についてまわります。労働市場という、一見考古学からは遠いマクロ経済の分野ではありますが、今の仕事を通して改めて“人”の歴史を立体的にイメージができる様になりました。
 例えば、私は仕事をしたくありませんと言うと語弊がありますが、正しくは私は仕事を“させらたく”ありません。望まぬ労働に強制的に就かされるよりも、できる限り自分の生き方に寄り添った労働状況であればと思います。とは言えいずれにしても人は働かざるを得ません。マルクスが言及した歴史の発展様式や生産様式に代表される様に、主義・思想がどうであれ、“人”と“労働”の関係性を改めて考えさせられたのです。
 とても抽象的な表現になりますが、“人”の“労働”を規定し強制するものは何か。また“人”が盲目的に、いわゆる思考停止をし“労働”を受け入れる社会が、またその上位数%が資本を持つ者として目指すべき目標として認識される社会が、私たちが本来的に望んでいる社会なのか、そんな中二病的な問いを繰り返し再考する様になりました。
 だからこそ、もう一度“人”と“労働”を自分なりに捉え直してみようと思いました。

コンテンツマーケティングとコンテキストマーケティング

 プロモーションを実施する際に、「労働を通し(あなたは)どう在りたいか」を想定し、「(あなたにとって)私たちのサービスは有益です」「私たちは(あなたの)味方です」と言うメッセージを込めます。これを考える事が私にとっては一番厄介な、骨の折れる仕事となりました。商業的、経済的なビジネスマンは、当たり前の話しですが前提としてマネタイズを考えます。つまりは儲かるかどうかを優先した後に、倫理的な整合性を取りますので、検討スキームはある意味フレーム化されています。私の場合はその段階から手が(思考は止まりませんが)止まります。
 「労働を通し(あなたは)どう在りたいか」ばかりを考え続けてしまうのです。もちろん統一的な答えなどありません。その中でアイデムとして、また日本の労働市場として、結果としての収益モデルをイメージします。そんな事を繰り返している中で、コンテンツマーケティングという手法がトレンドとしても注目される様になりました。当初は、はてなさんやデイリーポータルZさんと取り組みながら、アイデムとしての型を模索していきました。その過程でジモコロに辿り着きました。正しくは、柿次郎さんに出会いました。
markezine.jp

ジモコロという思索

 ジモコロについては何度も言及していますので、詳細には触れません。ジモコロは一言で言えば“多様性”です。地元や労働を軸にしながらも、より“人”の“多様性”を見せてくれるものです。それは、もちろん読者にとっての“多様性”であり、アイデムとしての“可能性”でもあるわけです。私が悶々としていた労働への態度が、ジモコロの中では姿形を変えて次から次へと展開されます。ジモコロは、地元に転がる(コロッケ?)情報を届けるメディア、というコンセプトですが、そこで描いているのはやはり“人”なのです。そういう意味では、ジモコロが更新され続ける限り、“人”の多面的な“労働”を伝えてくれる装置として存在してくれるのです。

退職の理由。

 “人”と“労働”を考え続けてくれる装置ができたから辞めるわけではありません。アイデムが嫌になったから、でもありません。企業は人なり、自分なりですから、それを否定することは自分を否定することです。私はいつでも考古学の世界に戻りたいと思っていますし、考古学に携わる仕事に就けたらと思います。反面、労働情報を提供する側として、その世界を見るととても限定的な領域です。とても皮肉な話しですが、日本の文化財調査の95%以上が経済的な要因に依るもので、「ここに重要な文化財があるから調査しよう」というものはほんの数%です。つまりは前述していた労働市場の構造に近いのです。
 退職のきっかけは7月に参加したジモコロ熊本震災イベントの取組が大きいです。メディアの力を再認識した事。またそこに参加している様々な働き方を示してくれる人々。だからこそ、という理由にはならないかもしれませんが、改めてビジネス社会において学んでみようと思いました。アイデムとは異なった文化で仕事をしてみたいと思いました。退職の理由は本当にそんな単純な理由です。
kurokawawonderland.jp

御礼

 何よりアイデムの皆さま、今まで誠にありがとうございました。繰り返しになりますが、私のビジネススキルはアイデムで培ったものとなります。特に私の近くで仕事を共にしていた方々にはご迷惑ばかりをかけたかと思います。本当にありがとうございます。
 またプロモーションを実施するにあたり、様々な事業者様、代理店様にお世話になりました。とても面倒臭い広告主側だったろうな、と自分自身認識しております。特にgoogle社やフリークアウト社には無理難題ばかり。お付き合い頂きありがとうございました。
 そして直近では、柿次郎さん(id:kakijiro)、望月さん(id:hirokim21)、DPZ安藤さん(@hige_bowz)、小松さん(id:ShoheiKomatsu)、そしてはてなの高野さん(id:mtakano)、いつも私の与太話に付き合ってくださいましてありがとうございます。

これから。

 10月1日〜は別の会社に在籍する事となり、10月3日から、つまりは週明けの月曜日からは他の会社に出社致します。(入社エントリはそのタイミングの予定です。)
 またWebマーケティングやアドテクに向き合う中で、(特にジモコロが大きいですが)セミナーの登壇や講義など、コンサルティング領域でのニーズが増えて来ました。この領域においては、引き続き自分の力を伸ばしつつ、個人的に取り組んでいければと思います。アイデムとして、という看板が外れて、どの程度話しが来るかわかりませんが、お声がけ頂けると幸いです。

最後に。

 「元気でな。良い奴だったな。さよなら。」と笑いながら送り出してくれたアイデムに、愛を込めて。今まで本当にありがとうございました。色々とありすぎて、書ききれませんでした…。